無為の力―マイナスがプラスに変わる考え方
河合 隼雄 谷川 浩司
PHP研究所 (2004/11)
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将棋フアンの私にとって、谷川浩司九段と河合隼雄先生との対談は

大変興味深い内容でした。将棋と心理療法の間に、かなり接点がある

ことが分かり面白かった。




p.84



<谷川>

河合さんが仰るとおり、次の一手を探している時というのは、

論理的に考えているだけではありません。そこで大切なのは

イメージだと思うんですね。(略)プロの場合は100とおりの

可能性があれば、そのうち95パーセントは最初から捨てて

しまって、残りの5パーセントの中から読みを掘り下げていく

ということをします。その場合、1+1=2といった論理的

思考を積み重ねていくというより、まず最初に「この局面では

この手が100点だ」というイメージが浮かんでくるんですね。(略)

前例のない局面に入った時に大切なのは、やはりイメージです。



<河合>

僕らの心理療法の現場でも、箱庭や絵画、夢とか、いろんな形で

イメージを取り入れていますよ。イメージというのは不明確で、

内容がはっきりと確定できないことが多いですね。だから、下手に

使うと失敗することもあります。かといって、論理的にばかり

やっていたら先へ進まないということがあるわけです。



谷川九段が言っていることは、要するに「将棋における直感の

大切さ」と言い換えても良いと思います。将棋は、意外と

「イメージ」や「直感」が大切です。論理的、数学的な読み

だけではなかなか勝てないんですね。特にトッププロになると。



私は、若いころ将棋のことを誤解していました。詰め将棋を

たくさん解き、定跡(理論)をたくさん覚え、実戦(応用)を

ある程度こなせば、誰でも上手くなるのでは、と。確かに

以上のことを実践すれば、誰でもある程度には強くなると

思います。でも、突き抜けて上手くなるためには、「イメージ」

「直感」を鍛えなくてはならないようです。羽生善治三冠も

「直感」の重要性を、本や対談の中で繰り返し指摘しています。



カウンセリングも、言葉だけ、理屈だけで推し進めると、壁に

ぶちあたることがあります。私は論理療法、行動療法、交流分析、

実存分析等を折衷したカウンセリングを行いますが、ユング派の

様な「イメージ」を使ったカウンセリングが残念ながら不得意です。

言葉のやりとりだけでは行き詰った時の打開策として、「イメージ」

をとりいれた技法を勉強しなくては、と危機感を持っています。



ユングの思想は、長年(実は今でも)異端、非科学的、オカルト的、

等のネガティブなレッテルを貼られてきました。でも、心理療法や

カウンセリングにおける「イメージ」の大切さを、専門家の間に

定着させた点において、ユングの思想は多大なる功績を果たしたの

ではないか、と私は考えます。




p.155



<河合>

みんな自分の力では変えられない運命を持っているかもしれませんね、と。

でも、ベートーベンの「運命」を書き換えるわけにはいかんけど、同じ

「運命」でも誰が演奏するかで違うでしょ。(略) 運命はあるかもしれない

けれど、その運命をどう演奏するかは各自に任されているんですね。


「運命」「宿命」という難しい問いに、もの凄く分かりやすいたとえ話が

与えられています。確かに、人間には、努力ではどうにもならない「運命」が

存在します。どのような家庭に生まれるか、どの国に生まれるか、などは

自分で決めることのできない運命的な要素だと思います。でも、だからといって、

「人間はしょせん運命で決まってしまう存在だ」と開き直って、何の努力も

せずにいてはならない。与えられた「運命」を、自分なりに懸命に演奏して

いくことで、「運命」と能動的な「対話」をすべきなのが、人間存在である、

とは言えないだろうか。



河合先生の話は、とてつもなく深いのに、とてつもなく分かりやすい。凄い。



合掌




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