専門用語を使わずに下世話な言葉で英文法を語ると、大ブーイングをくらうことがあります。「勉強不足」とか「素人のくせに」とお叱りを受けてきました。
しかし、学者ではなく予備校講師である私にとって、専門用語や学者の名前をを散りばめて文法を語ることには、あまり意味がないのです。目の前の受講生、多くは今までの教育のせいで「文法嫌い」になってしまった受講生にも伝わる、楽しくて分かりやすい文法を語ることが、予備校講師である私の使命なのです。文法は「科学」ではなくて「物語」である。また、文法は「手段」であって「目的」ではない。ならば、「文法のための文法」はプロ(学者)に任せておけばよい。私は分かりやすい「物語」、受講生の役に立つ「物語」を提供すればよい。
私のテーマは、専門家たちが作り上げてきた文法体系を参考にしつつも、自分自身の頭で「英語という言語共同体の無意識」を探ることです。心理カウンセラーが、クライアントの無意識を探るのと似ている作業だと思うのです。一人の人間に「無意識」が存在するのと同様に、一つの言語にも文法という「無意識」が存在する。人間の無意識を分析する心理学理論が色々と存在するのと同様に、文法理論も多種多様であっても構わない。もちろん、心理学の理論家(専門家)の仕事も貴重だが、現場の心理カウンセラーは「理論構築」のために仕事をするのではなく、目の前のクライアントを救うために仕事をする。目標達成のためには、理論的に矛盾したアプローチを実践することもある。同様に、現場の英語講師にとって、英文法理論の優劣は、「英語圏の人々の無意識」を的確に分析し、受講生のために分かりやすく表現出来ているか否かによって決まる。
好き嫌いがはっきり分かれる英文法理論の一つに「5文型理論」があります。私は「5文型理論」が大好きな、コテコテの「5文型信者」です。昔、某予備校の採用面接を受けた際に5文型理論を解説したら、面接担当者から「5文型理論なんて、全く意味がない。」と全否定されて、涙目になったことがありました。苦笑
たとえば、
John is in the kitchen.
という文は、私にとっては
John: S
is: V
in the kitchen: M(副詞句)
という第1文型なのです。専門家の中には、「"John is."という文が存在しない以上、"in the kitchen"を副詞句として解釈するのは無理がある」と疑問を呈する人が多く、7文型理論、9文型理論等々の分類が提案されています。
しかし、文型理論に論理的な正確さをつきつめても意味がないのではないだろうか。英文法は、「英語学習を手助けするため」及び「英語の本質を理解するため」のツールに過ぎないのだから、多少不自然であっても「物語」として分かりやすく、学習者に便利であれば5文型理論を採用しても良いと思うのです。
私は「5文型理論」という「物語」がシンプルで分かりやすいと思うので、クラスの中では大切に扱っています。ですが、同時に「5文型理論が嫌い」あるいは「分かりにくい」という方には対案(別の文型理論を提供するか、あるいは文型分類自体をなしにするか)を提供します。要するに、受講生の役に立てば良いのです。