日本人の英語 (岩波新書)


マーク・ピーターセン氏によるベストセラーです。私はこの本を、大学生の時にむさぼるように何度も読みました。GMAT受講生の皆様にも、一読をおすすめします。「なぜ?」という姿勢を大切にした本、ロジックを大切にした本です。


ピーターセン氏の仕事については評価が分かれているようですが、私は氏の本が好きです。もちろん「好き」=「全面肯定」ではりませんが、とにかく「好き」です。既存の文法理論や枠組みにとらわれず、英文法の深層に切り込む姿勢が素晴らしいと思うのです。コテコテの英文法理論を勉強したい方や、文法の専門家になりたい方は、氏の本を読む「だけ」では不足だと思いますので、念の為。

p.10〜p.11

Last night, I ate a chicken in the backyard.

夜がふけて暗くなった裏庭で、友達が血と羽だらけの口元に微笑を浮かべながら、ふくらんだ腹を満足そうに撫でている ― このような生き生きとした情景が浮かんでくるのである。

chickenという単語を可算名詞(a chicken)として使うと、「ある1羽の鶏」という意味になります。よって、もし"I ate a chicken."という表現を使うと、食肉処理をしていない、1羽の鶏全体をムシャムシャと食べているようなニュアンスになってしまうのです。つまり、"I ate a chicken."は文法的には可能だが、意味的にきわめて不自然な意味の文なのです。


鶏(a chicken)を食肉処理して、食用の「鶏肉」になった状態においては、不可算名詞(chicken)として扱われるのが通例です。

△ I ate a chicken. (上記のとおり、きわめて不自然な意味の文)
○ I ate chicken. (私は鶏肉を食べた)
○ I ate some chicken.(私は鶏肉をいくらか食べた)


私は、このような現象を「"1"という単位が壊れると、可算名詞が不可算名詞化する」と表現しています。一羽の鶏は可算名詞なのに、鶏肉になってしまうと(=一羽という単位が壊されると)不可算名詞になるわけです。