ブッダの夢―河合隼雄と中沢新一の対話
河合 隼雄 中沢 新一
朝日新聞社 (2001/02)
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河合隼雄と中沢新一の対談は、とてもスリリングで面白い。
お互いに、わくわくとしながら話をしているのが、行間から
読み取れる。河合隼雄は多くの対談を残しているが、中沢新一
との対談が一番秀逸な作品なのかもしれない。



p.27


<中沢>
こうすれば必ずこう治るという近代医学の言い方というのは、
僕はとても危険だなと思います。その裏で逆に、もう手の
施しようがありませんと言ったりするわけですから。


(略)


<中沢>
アンドリュー・ワイルが癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか (角川文庫)
の中で、今の医学では、あなたは治せませんとか、処置なしですとか言うのは、
ヴードゥー教の黒魔術師と同じ言い方だと書いていました。そういう断言は、
相手の生命力がまだ残っているのに、それに打撃を加えて、もう生きれない
ようにしてします。



////


私は、7,8年ほど前、風邪をこじらせ、咳で苦しんでいました。
某病院で診察を受けたところ、


「ああ、これは喘息ですね。基本的には一生治らないと
思ってください」


と宣告されました。


しかし、苦労はしたものの、咳は徐々に治まりました。
風邪の治癒と共に、咳も治った。「喘息」というのは
誤診だったようです。


私は「一生治らないと思ってください」という言葉に落ち込み、
うつ状態と言っても良いほど辛い闘病の日々を送ることになりました。
今振り返ってみると、あれは医者に「黒魔術」にかけられたような
ものです。


医者には、自分の専門の病気名を診断する傾向があります。
私のかかった医者は喘息が専門でした。「喘息ですね」と私に
告げたとき、医者の顔にかすかな笑みが浮かんだのを、敏感な
私は逃しませんでした。「自分のデータを集める際に便利な
サンプルが来た」という思いが、その医者の頭をよぎった可能性
がある。(もちろん、こんな医者ばかりではありません。優秀な
医者もたくさんいます。念のため。)


このことは、カウンセラーである私にとっても他人事ではありません。
私も、つい自分が比較的良く勉強している病気をクライエントが
かかえているのでは、とつい安易に考えてしまう癖があります。
「あ、それは多分うつ病だろう」などと、安易な判断を下し、問題の
正体が分かったような気になってしまうことがある。反省。



p. 28

<河合> 
(先ほどの話題の続きとして)
教育の場面でも同じです。あなたの偏差値はこういう点ですから、
この大学に入れない。あなたの人生は、もうあんまりうまくいかない。
そいう予言が、悪い条件として作用することに気がついていないの
ですね。


<中沢>
だから、もういろんなところで、教育とか医療とか、みんなで
呪いの言葉を投げつけあっているんじゃないでしょうか。


<河合>
呪いなんて言わずに、科学的事実、真実であると言うから、怖いんですよ。


<中沢>
ところが、やっぱり癒す人間は、どんな場合でも、それを言っちゃ
いけないんじゃないでしょうか。


<河合>
僕の仕事は、呪い解きのほうをやっているんです。


<中沢>
そうですね。


<河合>
だから、いちばん根本の態度は、要するに何も分からないという
とこから、まず出発するんですね。
この子は手がつけられない
非行少年であるとみんなが言ったとしても、それはどうか分からない
と思って会うわけでしょう。まったくどうなるかわからないという。
それはすごく大事なことじゃないでしょうかね。


////


いわゆる「知識人」「教師」「勉強している人」の中には、周囲の人間に
分析的な言葉を投げつけて、黒魔術を撒き散らしている人が多い。
心理療法家やカウンセラーは、クライエントに対面した時に、
そのクライエントが今まで浴びせられてきた「黒魔術」「レッテル」
を「解く」、つまり「呪いを解く」必要がある。言い換えれば、
自分が持っている知識や偏見を「いったんゼロにして」、レッテルを
貼ることなくクライエントに向き合わなくてはならない。


書くのは簡単だが、実行は難しい。


頑張ります。少しずつ、一歩ずつ。


河合隼雄先生、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。


合掌。










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