尚紀子さん。現在、アメリカへの留学(ピアノ専攻)を目指されています。
尚さんとは、夏の法政大学エクステンションカレッジのTOEFL講座で
出会いました。その後音楽の話で盛り上がって仲良くなり、デジタル
ハリウッド大学で私のクラスのTA(Teacher's Assistant)を努めて
くださっています。尚さん、留学に向けてあと少し頑張ってください!


尚さんとは、色々と音楽の話で盛り上がります。
ある日、私が尚さんに議論を「ふっかけ」ました。


バイオリンを習っていた私にとって、ピアノという楽器は「デジタル」に
過ぎる印象がある。バイオリンの場合は、左手の指加減で、いかなるピッチ
(音程)も原理的には出せるが、ピアノでは「ド」と「ド#(シャープ)」
の間の音が出ないではないか
、と。


尚さん曰く、「一流のプロは、その壁にぶつかる」 そこを、ペダルの踏み方
等によって工夫をし、なんとか「ド」と「ド♯」の音を出そうとするのだと。
実際には「ド」と「ド♯」の間の音は出ないのだが、何とかしてそれに近い
音を出そうと努力をするのだ、と。


なるほど。凄い。納得。ピアノを「究極的にはデジタルな楽器」であることを
あっさり認めた上で、その「デジタルの限界」を乗り越えようとするのがプロ
のピアニストである、と。(あくまで私の解釈です。)


言語の本質も、全く一緒だと思います。言語も、「正しい」という言葉を使う
時点で「正しくない」という逆の概念が想定されるという意味では、究極的
には「デジタル」です。「A」といえば、「Not A(Aではない)」という
概念が自動的に発生する。仏教は、言語によるこのような二分法を「分別智」
として批判します。(ごく簡単に言えばです!)しかし、上記のピアノの議論と
同様に、私たちは「デジタル」としての言語の限界を、様々な工夫をして
乗り越えていくしかないのではないか。


このあたりが、私の大学卒業論文のテーマでした。以来ずっと考え続けて
います。そして、私の「言語哲学」の師匠が故・丸山圭三郎先生です。



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閑話休題。



先日、尚さんのご招待で、若手ピアニスト・福間洸太郎氏のコンサートへ
行ってきました。少人数のサロンコンサートで、武満徹のピアノ曲を、
福間さんによる解説付きで堪能しました。



武満徹:ピアノ作品集
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  CDの視聴はこちら
  →http://ml.naxos.jp/default.asp



私が一番気に入ったのは、このCDの7曲目に収められている
「ピアノ・ディスタンス」です。


福間洸太郎さん曰く、武満作品を弾く際の一番のテーマは「間」
(ま)だそうです。そして、この「ピアノ・ディスタンス」という
作品は、俳句の世界のごとく「間」を大切にした、現代音楽的な
作品です。福間さんの解説ではじめて知ったのですが、「ピアノ・
ディスタンス」は、ジョン・ケージの「7つの俳句」の影響を受けて
いるのですね。なるほど、確かに追い求めているテーマが似ている!
「音」自体を大切にしているのはもちろんだが、「音」と「音」の
間の「沈黙」をとても大切にしている


音楽でも、絵画でも、会話でも、「間」が大切です。私が講演や
授業で一番大切にしているのが、この「間」です。「間」が悪いと
「間抜け」になります。(苦笑) 注意しないと!


自信のない講師は、つい「沈黙」を恐れてしゃべり続けてしまう。
でも、それでは、聞き手に情報を処理する時間、考える時間を
与えないことになり、結果評価は低くなってしまいます。


カウンセリングでも同じで(いかん、キリがないない展開・・・)
クライエントの「沈黙」を大切にする必要があります。どうしても
クライエントが「沈黙」すると、カウンセラーが焦ってしまい
色々と話を振ったり、質問を矢継ぎ早に投げつけてしまいがち。
でも、原則的には、クライエントが「沈黙」した時には、
カウンセラーもその沈黙を「共有」すべきだと思う。少なくとも、
「受容」と「共感」を基本とするロジャーズ派としては、この
基本姿勢を崩すことはできない。


福間洸太郎さん、これからの益々のご活躍を楽しみにしています。
またコンサートに伺います!